渇望-gentle heart-

overcome

翌日、俺は旅行から戻ったばあちゃんを駅まで迎えに行った。


百合は仕事で一緒にはこられなかったけど、それは少し都合が良かったのかもしれない。



「おかえり、ばあちゃん。」


助手席に乗ったばあちゃんを確認し、車を走らせた。


あのさ、と切り出したのは、俺。



「俺、ばあちゃんいてくれて良かったな、って思ってさ。」


「急にどうしたんだい?」


「百合と暮らせるのはばあちゃんのおかげだし、アイツが元気になっていくのだって、俺だけの力じゃきっとダメだったろうから。」


昔からずっと、ばあちゃんにだけは心の思うままを素直に打ち明けていた。


例え親には秘密にしていたことでも、ばあちゃんには全部伝えたかったんだ。



「俺、昨日百合とふたりで過ごして、アイツのこともっと大切だと思うようになった。」


「そうかい。」


「うん、だからこれからもずっと、俺、3人で暮らしてたいんだ。」


ばあちゃんは何も聞かず、ただ微笑んでいた。



「百合ちゃんは優しい子だからねぇ。
きっと神様がお前にプレゼントしてくれたんだよ。」


「そうだね。」


うちの両親は夫婦仲が悪く、決して楽しいだけの子供時代ではなかったけど、でも今、そんなあの人達を恨む気持ちがないのは、きっとばあちゃんのおかげだ。


だからこそ、ばあちゃんには長生きしてもらいたかった。



「あ、今日は百合が晩飯作るって!」


「それは楽しみだねぇ。」


しわくちゃの、ばあちゃんの笑った顔が好きだった。


けれどそれが、俺とばあちゃんが、最期にゆっくり話せた時間だったんだ。

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