渇望-gentle heart-
それから一週間ばかりが過ぎた、ある朝早く、俺の携帯に一本の電話が入った。


ばあちゃんが亡くなったのだ、と。


俺と百合は急いで病院に向かったのだけど、それは結果として、ばあちゃんの死を決定的なものにしただけだった。


眠ってる間に、苦しまずに死んだということは、まだ救いではあるのだろうか。


泣きじゃくる百合を横目に、俺はただ呆然と立ち尽くしたまま。


どうしてもっとちゃんと時間を作らなかったのだろう、出来ることはたくさんあったはずなのに、と後悔ばかりで嫌になる。


蘇ってくるのはどれも、思い出ばかり。


途端に溢れてくる涙で顔を覆うと、百合が支えるように俺の背中に腕を回した。


お前だって辛いはずなのにな。



「タエさん、いつも孫の話してたって。」


ワタルくんが沈痛な顔で言う。



「純平くんのこと、自慢だって言ってたから。」


ばあちゃんの寝顔はひどく安らかだった。


店がオープンしたら、一番初めの客はばあちゃんだって決めてたはずなのに。


なのに、どうして。



「ごめんね、ばあちゃん。」


その亡骸に声を掛けたが、当然だけど返事はなかった。


百合はひどく震えていて、だから見かねたワタルくんが室外へと連れ出してくれる。


俺は冷たくなったばあちゃんの手を握り、悲しみに暮れた。


泣いてたってばあちゃんは喜ばないってわかってるはずなのに、でももう話を聞いてもらうことも、喜びを報告することも出来ないんだ。





最愛のばあちゃんへ。


俺は恩返しが出来ていましたか?

感謝が伝わっていましたか?






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