渇望-gentle heart-

angelic smile

俺たちが住み慣れたあの、濁った街を後にしたのは、秋の始まりだった。


初めはわくわく感ってゆーのかな、新しい生活をするにあたり、ふたりで子供みたいにはしゃいでたっけ。


でもお前の傷は、まだ癒えてなかったよな。



「百合、疲れてない?」


「ジュンちゃんそればっかだよねぇ。
別に心配してくれなくても、あたし引っ越し作業ごときで死なないっての。」


相変わらずの憎まれ口。


俺と百合は、これからうちのばあちゃんちで一緒に暮らすわけなんだけど。



「んでも、お前あんま無理すんなよ。」


ずっとさ、別に恋人同士になりたいだとか、そんなことを思ったことなんて、一度もなくて。


ただ、傍にいたかった。


無理をしたがって、弱さを隠すことでしか生きられない彼女の、一番近くにいてやりたかっただけなんだよね。


百合は今までずっと、苦しみの中にいたから。


だからこそ、これからは、もうこれ以上傷つかないように、って。


あの頃から、いや、今の方がずっと大好きだけどさ。


俺は百合に何かを強制するつもりなんてないし、ましてや気持ちを押し付けようなんてことも思わない。


百合が自分で選んだ道を歩む上で、俺の隣にいたいって望んでくれたらな、ってね。


依存しあうのは簡単なんだ。


けど、それじゃあダメだって、百合自身が一番わかってるだろうから。


だからこれからは、俺と手を繋いで、一緒に生きていこうよ、って。



「百合にはさぁ、泣き顔なんか似合わないよ。」

< 2 / 115 >

この作品をシェア

pagetop