渇望-gentle heart-
それから、ばあちゃんの葬儀はしめやかに執り行われた。


喪主は伯母さんで、うちの馬鹿親父なんかとは全然逆の、高校教師だ。


百合と俺がばあちゃんちで一緒に暮らしてた事情も知っているし、それなりに気遣ってもくれた。



「百合、もう休んでて。」


けれど彼女は首を左右に振る。



「良いの、何かしてたいから。」


身内ではないのだし、あまり手伝わせたくなはかった、というのもあるけれど、百合が過去を思い出すこともそれなりに怖かったのだ。


折角あの頃のことを記憶の奥に仕舞っていたはずなのに、って。


俺はあれ以来、気丈に振る舞っているつもりだった。


でも思ってるよりずっと疲弊している自分がいて、それほどまでに、大切な人の死というものは、ショックが大きい。



「純平、ちょっと良い?」


俺だけが伯母さんに呼ばれた。


百合に奥の部屋で待ってるように告げ、俺は葬儀の終わった大広間に行く。


そこにはすでに、身内の数人が集まっていた。



「こんな時であれだけど、なかなかみんなが顔を揃えることってないでしょうし。」


前置きのように言った伯母さんは、



「あの家は売りに出して、遺産は少ないけれど、均等に分けましょう。」


一体何を言っているのだろうか。


大人の事情がわからないほど子供ではないけれど、でも金の話なんてこんな場ですべきではない。


それに、あの家を売るって?



「ふざけんなよ!」

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