渇望-gentle heart-
珍しく声を荒げた俺だけど、聞きなさい、と逆に伯母さんに諭される。



「純平の気持ちはわかるし、あの家は私たちにとっては生家だわ。」


「なら、何で!」


「でもね、じゃあ一生あの家が残ってれば満足なの?」


俺は途端に言葉が出なくなる。


伯母さんは、本当に教師が生徒に教えるように、俺に言った。



「家や土地があれば、決して安くはない固定資産税が発生するし、古くなれば改築だって必要なのよ?
思い出があるってだけで、そのお金を払い続けることは出来る?」


「…それ、は…」


「形あるものはなくなっても、絶対に消えないものもあるの。」


言いたいことはわかってる。


だからそれ以上反論の言葉もなくて、俺は悔しさに唇を噛み締めた。



「純平、悪いんだけどあの家を出てもらえないかしら。」


それでも目を逸らした俺に、



「私だってこんなことは言いたくないけど、身内同士がお金の話で揉めることだけは避けなきゃならないの。」


わかるでしょう?


と、伯母さんは言った。


馬鹿親父は横でうんうん頷くだけだし、いとこ達はこの話にさほど興味もなさそうな顔だ。


やりきれなくなってしまう。



「最期までお母さんの面倒を看てくれた純平や百合さんには感謝してるけど、これはみんなで決めたことだから。」

< 21 / 115 >

この作品をシェア

pagetop