渇望-gentle heart-
結局俺は、最後まで何を言えるでもなく、消沈して百合のいる別室に戻った。


彼女は黙って手帳を見つめていた。



「それ、何?」


見ればそこには、ばあちゃんと百合の映っているプリクラが貼られている。


だから目を丸くしてしまったのだけど。



「これ、ちょっと前におばあちゃんと買い物に行った時、何でだか一緒に撮ったの。」


「嘘だろ?」


「本当だよ。
おばあちゃん、こういう若い子の写真は初めてだって言って嬉しそうだった。」


思い出したように言う百合に、胸が軋んだ。


ばあちゃんは全然違う方を見ていたり、下手くそなピースをしていたりで、その姿に俺は、泣きそうになりながらも笑った。


百合はきっと、俺だけじゃ出来なかったことを、ばあちゃんとしてくれていたのだろう。



「ごめん、俺、あの家守れなかった。」


漏らしてしまった俺に、百合は頷く。



「ジュンは悪くないよ。
おばあちゃんだってきっとそう思ってる。」


男なら、こういう時は支えてあげるべきなのに。


なのに、気付けば俺は、百合に支えられるようにして立っていた。


お前だって俺と同じくらい悲しかっただろうに、必死で泣かないようにと努めてくれていたね。


俺たちの間に血の繋がりなんてものはないけれど、でももっと深い部分で繋がっている気がしたんだ。



「おばあちゃん、きっとあたし達のこと見守っててくれてるよ。」


そうだね、百合。


ばあちゃんのためにも、ちゃんと顔を上げなきゃいけないんだよな。

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