渇望-gentle heart-
それから俺達は、ふたりで新しい部屋を借りた。


と、言っても、店の開店資金で貯金を使い果たしていた俺なので、少し手狭で、あまり人に自慢できるような部屋でもなかったけれど。


でもさ、何だか新婚ごっこのようだったね。


百合の作るご飯の味は、いつの間にかばあちゃんのそれと同じになっていて、生きるということは受け継ぐということなのかもな、と思ったんだ。


残念ながらあの家は取り壊され、土地が売りに出されてしまったけれど。


でも、確かに伯母さんが言ったように、思い出が消えるわけではない。


あの日々を胸に、俺達は毎日を紡いでいたね。







ばあちゃんが死んでからまた少しだけ時が経ち、店の開店がいよいよに迫っていた。


俺は常々、地元で採れた有機野菜をベースにした和食料理の店にしようと思っていたのだけれど。


てか、簡単に言えば、ばあちゃんの作るような料理を提供したかった、っつーか。


でも、その作り方を知ってるのは、今や百合だけ。


だから結局は、手伝わせてしまったのだけれど。



「百合、ごめんな。
お前、そうくんのとこのバイトだってしてるのに、夜はこっちまでやらせちゃって。」


「気にしないでよ、何か楽しいし。」


真新しい店の厨房に立ち、ひとつひとつの料理を、紙に記しながら作ってくれる。


それを元に料理長の野田さんと話し合い、レシピを完成させていく、って感じ。



「それにさ、ほら、おばあちゃんの味でみんなに喜んでもらいたいって思うの、あたしも一緒だから。」


「うん。」


「何より、珍しくジュンからの頼みだしね。」


苦笑いを浮かべてしまった俺に、横から野田さんが、相変わらず仲が良いね、と茶化してくれる。

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