渇望-gentle heart-
そして、オープン前日の夜。


俺が店に招待したのは、百合の家族だった。


別に認めてもらおうと奮起しているわけではなく、みんなで食事の場を持つことは大切だと思ってるから。


そして時間になり、一番に現れたのはお父さんだった。


全員仕事もあるし、終わる時間もバラバラだから、別々に来るとは聞いていたけれど、久しぶりの対面に、俺も少し緊張してしまった。


百合も今日は仕事なので、爽馬くんと一緒に来るらしく、今は俺たちだけなのだ。



「おめでとう、佐々木くん。
今日は招待してくれて感謝しているよ。」


「とんでもないです。」


百合のお父さんは、過去、家庭をかえりみずによそに愛人を作っていたらしいけれど。


でも、今じゃすっかりその影なんてなく、毎日のように息子と一緒にゴルフばかりしているのだという。


人は意志があれば変われるのだろう。



「つか、祖母の葬儀の時、お父さんにも色々とご配慮いただいて。
なのにご挨拶にも伺えなくて、ホントすいませんでした。」


かしこまってペコリと頭を下げた俺に、彼は堅苦しいことは抜きによう、と笑ってくれた。



「キミには本当に、娘のことも含め、これ以上ないくらいに世話になっているんだ。」


「いえ、俺の方が百合に助けられてますから。」


お父さんは少し困ったように笑っていた。



「あの街で、百合はたくさんの悲しいことと向き合って、別れを経験して、今があるんです。
それはアイツ自身が選んだことで、だから今も昔も、俺は何もしていませんよ。」


決して謙遜しているわけではない。


でもお父さんは、少し寂しそうな目で俺を見た。



「でも今、娘はキミの存在に救われていると言っていたよ。」

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