渇望-gentle heart-
ありがとう、百合。


それ以上の言葉を知らない俺は、他にどんなことを言って伝えれば良いのかもわからないのにね。


あの、と俺は顔を上げた。



「百合のことを生んでくれて、ありがとうございます。」


「……え?」


「アイツが今、ここに生きてるのは、やっぱりご両親のおかげだから。
俺、恥ずかしいけどこんなに大切なヤツに出会えたことってなくて、だからちゃんとお礼を言いたくて。」


また頭を下げる俺と、やっぱり困った顔をしているお父さん。



「我々家族はね、一度百合を切り捨てるようなことをしてしまったんだ。
だからもう、親として振る舞うべきではないと考えている。」


彼は言う。



「だから、百合のことは佐々木くんに全面的に任せようと思っているんだ。」


「…えっ…」


「もう成人もして家を出ているんだしね、それ以上はふたりで決めた道を選んでくれれば良い。」


何だか結婚までオッケイされちゃったみたいな台詞に、俺は目を丸くしていた。


お父さんはそんな俺の肩をぽんぽんと叩く。



「まぁ、若いんだ、頑張りなさい。」


「いやっ、あのっ、ありがとうございます!」


どうして良いかもわからずにお礼を言うと、何故だか笑われてしまう始末。


すると彼は、ふと思い出したように口を開く。



「それより、我々より先にキミのご両親を招待しなくて良かったのかね?」


問われ、俺は曖昧な顔で笑った。

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