渇望-gentle heart-
「あの、うちの親はお恥ずかしい話、離婚して今は別々に家庭を持ってるんです。
だからもう、お互い干渉しないようにって感じで、その…」


上手く言葉が出てこない。


別に気にしているわけでもないけれど、でもやっぱりそれは、少しコンプレックスだ。



「そうか、すまないことを聞いたな。」


「や、全然大丈夫っす。」


俺は精一杯で口角を上げた。



「俺、今こうやってお父さんと話してると、嬉しいんすよ。
勝手に自分の親父みたいに思ってて、だからちょっと照れくさいっつーか、何つーか。」


頬を掻いた俺に、



「何を言うんだ。
キミはもう、うちの息子も同然じゃないか。」


こんなにくすぐったい感覚って、今までになかった。


だからやっぱりそれ全部、百合がいてくれたからだと思ってるよ。


俺はさっきからずっと、ぺこぺこと頭を下げてばかりで、後ろで見守っていた野口さんまでも、笑っていた。


それから少しして、百合と爽馬くんが一緒にやってきて、入口で立ち話していた俺達に呆れていたけれど。



「ねぇ、お父さんと何の話してたの?」


「んー、男と男の話をね。」


「意味わかんないよ。」


けど、百合には絶対に内緒だ。


その後さらに、ワタルくんとお母さんが一緒にやって来て、みんなが揃う形となった。


ここにばあちゃんがいないことは悲しいけれど、でも今、きっと空の上で見ててくれてるはずだから。


俺、ばあちゃんに恥じない孫でいられてるかな。

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