渇望-gentle heart-
食事に端を落としながら、お母さんは涙ぐんでいた。


その背中をお父さんがさすっていて、俺は百合の家族に希望の光というものを見た気がしたよ。


ホストだった頃は誰かに感謝されるようなことなんてなかったけど、でも今、ありがとうって言葉がたくさん俺に染みている。


それってすごく素敵なことだと思うんだ。


百合と一緒に帰宅する道中、夜中の神社に寄って、翌日のオープンの無事をふたりで祈願した。



「何かさ、今更神頼みだなんて、受験生みたいだな。」


「ははっ、それっぽい!」


と、百合は笑ってから、



「でも、例え神様が無視してても、あたしがジュンの味方だから、心配ないよ。」


「うわっ、それすげぇ不安!」


「ちょっと、どういう意味よ!」


心配事の数を数えれば、きっとキリがないと思う。


けど、こうやってはしゃいでいられたのは、それが百合とだったから。



「百合もうちの店で働けば良いのに。」


「それはダメでしょ。
アンタ絶対公私混同しちゃうし、それじゃみんなに示しがつかないじゃんか。」


「手厳しいね、相変わらず。」


「まぁ、潰れそうになったら助けてあげる。」


「おいおい、それ縁起悪いから!」


百合も、もちろん店も、俺にとってはどっちも同じだけ大事だと思ってたんだ。


それは今でも変わらない。


でも、俺はやっぱり不器用で、だから半端なことしか出来なくてごめんね。


ずっと一緒にいるって、俺が言ったのにさ。

< 29 / 115 >

この作品をシェア

pagetop