渇望-gentle heart-
「もう、何を言っても今更だけど、もう少し出来ることはあったはずだって、今は後悔してばっかで。」


一度漏らしてしまった弱音は、どんどん言葉となって垂れ流されていく。


そんな俺を見た野口さんは、考えるように宙を仰いだ後で、視線を戻した。



「なら、いつか迎えに行ってやれば良いじゃないか。」


「……え?」


「例え今はダメだったとしても、これからのふたりがどんな道を選ぼうとも、また違った形でやり直すことは出来るんじゃないのか?」


野口さんは椅子に腰を降ろし、自分の分のコーヒーのプルタブを開けてから、お疲れさん、と俺の分に乾杯をする仕草を取る。



「けど俺、待ってろなんて言えませんよ。」


「言う必要なんかないさ。
男なら、心に誓ったことを不言実行、って言うだろ?」


彼はそう言ってから煙草を取り出したので、俺は昔の癖で反射的にライターの炎をかざした。


そんな自分には、やっぱり苦笑いを浮かべてしまうけれど。



「別に嫌いで別れたわけじゃないんだろ?
だったら距離を置いた時に、また違った考えも生まれるってもんさ。」


彼は言う。



「人は、生きてる限り前に進んでいくもんだ。
だから例え今は別れ道でも、先でいつか道が重なるってこともあるんだからよ。」


それは、野口さんなりの慰めだったのか。


けれど俺は少し肩の力が抜けた気がして、ありがとうございます、と言葉にした。



「キミがくよくよしていると店が傾くぞ。」


そうですね、と俺は笑った。


いつだって俺の周りには、こうやって優しい人が溢れているんだ。


それはきっと、ばあちゃんが天国から今も支えてくれているからなのかもしれないけれど。

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