渇望-gentle heart-

own way

時が過ぎて、夏を迎えた今日は、アキトさんの命日だった。


俺は無理やり友達との約束を作り、夜を生きてた頃に過ごしていた場所へと、百合とふたり、戻ってきたわけだけど。



「おい、ジュン!
久しぶりに会ったんだし、もうちょっとテンション上げろよ!」


友人であるゆうくんは、初めて入った店で仲良くなった、同期。


けれど当然のように、俺は憂鬱な顔をしたままだ。


だって先ほど足を運んだ霊園で、2年振りに瑠衣さんに会ってしまったから。


もしかしたら百合は、あのままあの人と一緒にどこかへ消えるのではないか、いなくなったとしてももう、俺は引き留めるべき立場じゃないから、って。


そういうことが、ぐるぐると頭の中を回ってる。


ふたりっきりにさせたのは、きっと俺が臆病だからってだけで、本当は百合のこと、心配で堪らないんだ。


ゆうくんの家にやってきても、そわそわとしたままな俺を見て、



「まぁ、百合ちゃんと別れたって聞いた時には俺も驚いたけどな。」


「良いって、そのことはもう。」


「何が良いんだよ、まだ好きなくせに。」


嫌なヤツだ。


けれど俺は、不貞腐れるように口を尖らせることしか出来ない。



「ったく、相変わらず格好悪いヤツだなぁ。」


昔から俺にこんなことを言うのは、この男だけ。


例えオーシャンでナンバーワンになろうとも、ゆうくんだけは、俺のダサすぎる部分を知っていて、だからひどい言い草ばかりを並べてくれる。


ちなみに、今も元気にホストを続けているらしいけど。



「ゆうくんこそ、いい加減落ち着けよ。」


「俺は恋愛なんか向いてないから良いんだって。」


ふたり、吐き出した煙草の煙には、ため息が混じる。


ふと、彼は宙を仰いだ。

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