渇望-gentle heart-
百合はばあちゃんちで暮らし始めて、一番のお気に入りの場所は、縁側なのだと言った。


そこに座って、陽の光を浴びながらばあちゃんが庭いじりする様子を見てるのが、一番好きなんだって。


葉の緑と、土の茶色、空の青さのコントラストが綺麗だから、って。



「あたしもさぁ、早く仕事見つけなきゃ。」


俺は地元に戻ってすぐ、知り合いの経営する小洒落た雑貨屋で働き始めたわけなんだけど。



「別に焦る必要なくない?」


「だって、さすがに働きもしないのにお世話にはなれないでしょ。」


こっちに来てからの彼女は、無理して空元気を装ったり、とにかくいつも、まるで何かを忘れようと必死そうだった。


けどさ、少し心の休息だって必要なんだよ。



「百合の面倒くらい、俺ひとりでも看られるって言わなかった?」


「…いや、でもさぁ…」


「つか、ここで暮らそうって言ったの俺だし、それにほら、あの日の感謝の意味も込めてさ!」


オーシャンというホストクラブで、俺がナンバーワンになった時のこと。


ずっと面倒なことを避けてきたからこそ、順位を維持出来る保証なんてなかったし、正直辞めてしまおうとも思ってたんだ。


けど、百合が助けてくれたから。


今の俺があるのも、あの日お前が数百万という金を落としてくれたから。


だからさ、ちゃんと恩返ししたいっつーか、あの時の金に比べたら、って思うんだ。

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