渇望-gentle heart-

get hurt

あの頃、世界も、自分自身でさえも、何もかもが嫌いで、だから全てをぶっ壊してやろうと思っていた。


けれど、そんな俺を救い上げてくれた人がいた。


恋と呼ぶにはあまりにも報われず、愛と呼べるほど綺麗な感情でもなかったけれど。


でも、確かに俺は、あの人の傍で生きていた。


例えどんなに汚ない仕事に手を染めようとも、恩を返したかったし、一番近くにいることだけを望んでいた。


けれど、そんな日々を貫くことにも次第に迷いが生まれた中で、ふと立ち止まった場所に、お前がいたんだ。


真綾の涙を初めて見た。



「生きてて良かった。」


それは、俺の心の底から湧き出た言葉。


緊急手術を終えても目を覚まさない彼女の傍で、永遠とも思えるほどの長い時間、俺は片時もそこを離れたりなんかしなかった。


理由なんてない。


だから今でもそんな自分が不思議でしかないけれど、でも、真綾にはいつでも笑っててほしかったから。


濁った街で、唯一澄んだ瞳の女。


出会った頃から笑顔を絶やさず、辛い過去さえも笑い飛ばす彼女の存在は、きっとあの頃、全ての人の希望に似ていたことだろう。


世界の終わりさえ望んでいた俺が、真綾に光を見ただなんて、おかしな話なんだけど。



「大丈夫、俺は真綾の傍を離れたりなんかしないから。」


気付けばそんなことを口にしていた。


だってもう、これ以上真綾が苦しむ姿なんて見てられなくて、詩音さんのことだってこの瞬間には吹き飛んでいたんだ。


彼女の命の輝きが俺にもたらした、小さな変化。

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