渇望-gentle heart-
真綾は退院してからも、術後の経過観察のために通院したりと、すぐに飛び立つ許可は下りなかったけれど。


でも、俺達はその間も、片時も離れたりなんかしなかったね。


そして季節は秋を迎えた時。


やっと医師から経過は良好だとお墨付きを貰い、それからすぐに、ふたり、濁った街に別れを告げた。





涙はもう置いていこう。



そして始めよう

俺達の新たな日々を――








真綾は透けるような色をした海ではしゃぎ、子供のようだったけれど。


それはガイドブックで見た写真なんかよりずっと綺麗で、澄んだ空気に俺まで嬉しくなったことを覚えている。


波間を照り返す陽射しに焦がされ、目を細めると、まるで希望の輝きのようにも見えた。


ここは人口千人ほどの、決して大きくはない島だ。


都会よりもずっと鮮やかな世界は、本当に楽園と呼ぶにふさわしい場所だろう。


もう俺たちに、帰る場所なんてない。



「生命の誕生したところは、きっとこんな感じやったんかもね。」


ふわりと風が舞った。


真綾は真っ直ぐに大海原を見つめながら、



「うち、出来る事ならこんな場所で死にたい。」


「やめろよ、縁起でもない。」


俺の言葉に、だけども真綾は口元だけを緩めて見せた。



「けどもう、こんな景色見たら、ここから動くこと出来へんわ。」

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