渇望-gentle heart-
「真綾は後悔してる?」


「してへんよ。」


体の向きを変えるだけで、古びた木枠のベッドがぎしりと鳴る。


ここでの夜は、本当に静かだ。



「俺、真綾となら、一生ここで暮らしてても楽しめると思ってる。」


その言葉には、何の偽りもない。


俺達はまるで、親に隠れて夜更かしをする子供のように、ひそひそと話していた。


それがおかしくて、ふたり、笑ってからキスを交わす。


あれほど女を抱いて、誰とヤるのも同じだと思っていたけれど、でも、今は真綾に触れるだけでも少しためらっている自分がいる。



「傷、見せて。」


柔肌にくっきりと残る、手術痕。


俺はそこに口付けを添えた。


この傷は、真綾が確かに今、ここに生きている証であり、誇らしいものだ。


それさえ俺には愛しくて、だから纏っていた衣服を脱ぎ捨ててから、ふたり、生まれたままの姿になった。



「うちの体は汚れてんねん。」


「どうして?」


どうしてそういうことを言うのだろう。


人は生きるごとに傷を負い、だからこそ美しくも優しさを知ることが出来るのに。



「俺が綺麗だって言ってんだから良いじゃん。」


その強がりも、弱ささえも、傷のひとつだって隠さないで。


どうかこんな日々が永遠に続きますようにと、神がいるなら俺は祈る。

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