渇望-gentle heart-
セックスなんかしなくとも、人は確かに繋がっていられるんだ。


あの街を出る日、記念にとばかりに買った、安いシルバーのリングは、ふたりの指で揃いの輝きを放っていた。


左手の薬指に嵌めたそれは、すっかり陽に焼け、痕になってしまっているけれど。


でもその色の濃さの分だけ、俺達の絆も深くなっている気がするんだ。


ひとりじゃないと、確かに感じていられるから。



「この島では、みんなが家族みたいであたたかい。」


「そうやね。」


「血の繋がりなんか大した問題じゃないし、そういうのって何か良いな、って、俺思ったんだよね。」


ここには、俺達を苦しめるものなんて何もない。


言葉を交わす度にキスを繰り返すふたりは、まるで優しさを分かち合っているかのよう。


弱さも過ちも、全てはもう、過去のことだ。


それは決して忘れて良いことではないけれど、でも、背負って前を向くことは出来る。



「うち、ジローとこうやってると安心すんねん。」


「俺もだよ。」


笑ってから、また唇をついばんだ。


真綾といると、世界が輝いて見えるんだ。


先のことに不安がないと言えば嘘になるけれど、でも、彼女が隣にいるなら俺は、どんな風にだってなれる気がする。



「おいおい、苦しいって。」


ぎゅっと抱き締められてしまう。


ひどく心地の良い体温と、刻むふたつの拍動は、確かに俺達の未来を紡いでいる。


大丈夫だよ、俺はちゃんとここにいるから。

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