渇望-gentle heart-
「百合ちゃんはさ、ゆっくりやりたいことでも見つけろよ。」


「あたしさぁ、アンタに甘えすぎじゃない?」


「じゃあチューして。
つか、別の意味で、もっと甘えてくれても良いんですけどね。」


「それは嫌ー。」


そんな、他愛もないだけの会話が楽しかったよな。


百合がいて、俺がいて、ばあちゃんがいて、そうやって暮らす日々が幸せだった。


あの街では、きっとこんな風にして生きることなんて出来なかったろうからさ。


セックスしたいなんて思ってないよ。


いや、そりゃ俺だって男だから、本心はただのエロの塊だけどさ、でもそれよりずっと、大切にしたいんだ。


百合を、こんな毎日を。


きっと俺らはそういうのが全てじゃないし、そんなもののみで繋がるような関係にだけはなりたくなかったから。


愛してるってさ、胸を張りたいんだよね、俺。



「じゃあさ、毎日弁当作って!」


「……え?」


「何かさぁ、愛妻弁当とか良くない?
憧れるっつーか、百合が俺のために作ってくれんの!」


「ちょっとちょっと、冗談でしょ?」


百合は俺の提案に、あからさまに口元を引き攣らせていた。


けどさ、俺、お前の性格はちゃんとわかってるから。


結局次の日の朝、百合は不貞腐れたような顔しながらも、俺に弁当を手渡してくれた。



「じゃあついでに、いってきますでほっぺにチューして。」


そう言ったら、調子に乗らないで、と一蹴されちゃったけどね。


まぁ、新しい日々はそんな感じだったっけ。

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