渇望-gentle heart-
俺は観光案内所での見習いの仕事、真綾は午前中は漁村を手伝い、午後からは畑で野菜を作ったりと、それぞれがこの島に溶け込んでいた。


あ、ちなみに俺、煙草やめたんだ。


真綾のためってのもあるけど、手に入れるのも四苦八苦だから。


ここには週に一度、本土から医師が往診に来てくれて、彼女は先生ともすっかり仲良くなったようだ。


夕日が沈む頃になると、俺達は毎日飽きもせずに浜辺に行く。



「今日は少し風が冷たいんやなぁ。」


「寒くない?」


「誰かさんの手があったかいから、うちは寒いなんて思ったことあらへんよ。」


それは良かった、と俺は笑う。


西日のオレンジは今日も鮮やかに俺達を照らしてくれ、手を繋いだままに真綾は、柔らかい笑みで俺を見た。



「うちな、今のジローは世界で一番格好良いと思うで。」


「何言ってんだよ。」


「だってホンマのことやんか。
太陽が似合ってて、こんなにも人に自慢できる男なんかおらへんよ。」


それは俺の台詞なのに。


珍しく褒められてしまい、どうしたものかな、と思ってしまうのだが。



「ありがとうね、ジロー。」


波よ、風よ、どうか彼女の命をさらってしまわないで。


永遠に、なんて我が儘は言わないけれど、でももっともっと共に生きていきたいんだ。


夕日の色に溶ける真綾の淡い色した髪が、吹き抜けた潮風に舞った。



「勝手に死んだら許さないからな。」

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