渇望-gentle heart-
「何言うてんねん。
うちは絶対、ジローより長生きするって決めてんねんから。」


「すごい自信だな。」


「そらそうやん。
アンタを残して死ねるはずないやろ。」


頼もしい言葉だ。


あの街よりずっと遅い冬の訪れと、そして夕日の沈む頃。


共に生きた人たちは今、どこかで俺達のように、心穏やかに過ごしていてくれることを願う。



「あ、今、詩音さんのこと考えてたやろう?」


驚いた俺をよそに、笑った真綾は、



「うち、アンタがあの人のこと好きになった気持ち、わかるねん。」


「…え?」


優しい人やったなぁ、と彼女は空を仰いだ。



「きっと、うちらが今、ここでこうやってられるのは、あの人のおかげやねん。
やから、その想いは大切にしといてほしい。」


真綾の心の中には、やっぱり太陽が住んでいるんじゃないのかと思う。


だから俺は苦笑いを混じらせ、そうだね、と言うことしか出来ない。



「思い出は、忘れる必要なんかないんやから。」


救われてるのは、きっと俺の方。


目を細めると、水面は空と同じオレンジの色に輝く。



「ジローのそういうの全部、うちにとっても同じくらいに大切やねん。」

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