渇望-gentle heart-
分かち合うものは、決して喜びや悲しみだけではない。


互いの過去さえ愛しく思えた時、それが本物になるのだと知ったから。



「馬鹿、それは俺の台詞だって。」


あの夜の街で出会ってから、もうすぐ3年になるだろうか。


初めはその奔放な笑顔が煩わしくて、相容れない存在だとすら思っていたはずなのに。


なのに、背負ってきた過去を知った。


弱さや傷を見せられた時、必死で生きるその横顔に気付かされたから。


眩しいまでに輝く命がそこにはあって、だからいつの間にやら俺は、感化されていたのかもしれない。


限りある時の灯火を、共にたぎらせたいと思う。



「うちな、こんな体やし、独りでも強く生きていこう、恋愛なんかしぃひん、って思っててん。」


「うん。」


「やけど、今はジローがおってくれて、大好きな景色に囲まれて暮らすことが出来て、こんなに幸せやって思えること、他にないねん。」


気の早い一番星が、空に一粒の光を瞬かせる。


あの街では、それを探すことさえ叶わないほど、ネオンの色に満ちていたけれど。


もう、戻りたいとさえ思わない。



「おっ、お前らまたこんなとこにいたのか!」


ふたり、振り返るとそこには、村役場でお世話になっている、ゲンさんの姿。



「相変わらず仲が良いなぁ。」


と、豪快に笑った彼は、



「これから山ジィんちで酒盛りやるんだけど、一緒に来いよ!」

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