渇望-gentle heart-
「ジローってホンマ、びっくり箱みたいな男やなぁ。」


「何それ?」


「いっつもうちのこと驚かしてくれて、笑わせてくれんねん。」


笑わせたつもりはないんだけどな、と俺は、諦めたように肩をすくめた。


真綾は息を吐き、そんな俺に向き直る。



「うち、さっさと元気になって、アンタのためにも丈夫な子を産んだるわ!」


心底驚いた。


だってそれじゃあまるで、プロポーズ返しみたいじゃないか。


びっくり箱みたいなのはきっとお前の方で、だから選んだことに間違いはない。


俺は笑ってしまって、



「期待してるよ。」








小さな島での、平凡なだけの夜。


日が暮れれば店さえ閉めてしまうような場所で噛み締める幸せなんて、きっとちっぽけなだけのものだろうけど。


それでもここは、俺らにとっては楽園にも等しい。


確かに何もない。


けれど、誰にも負けないほどに、命が輝ける場所だから。


過去に、きっとこの人のためなら死ねるだろう、とさえ思った相手がいた。


けれど今は、愛しい彼女のために、何が何でも生きてやろう、って思ってるんだ。


真綾は俺にとって、そういう存在。

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