渇望-gentle heart-
さすがは日本の南だけあって、夏と呼ばれる時期は長い。


たまに台風が通過したりして、島中がひやっとすることはあるけれど、でもみんなで協力し合って乗り越えてる感じ。


まぁ、その度に畑を守らなきゃならないのは、少し大変なんだけど。



「お、ジローも今帰り?」


仕事の終わり、久しぶりに会う顔に呼び止められた。


19歳、自称この島一番のイケイケ男であり、勝手に俺の親友だと名乗っている、サム。


ふざけた名前の、ふざけた野郎だ。



「呼び捨てすんなっつったろ。」


と、言っても、いつもそれがこの馬鹿まで届くことはないのだけれど。



「なぁ、それより聞いた?」


「何がだよ?」


「さっき港の方で、綺麗なおばさんが道に迷ってたって話。」


「は?」


綺麗な、おばさん?


どうせ旅行者か何かだろうと思っていると、



「まあちゃんが住んでるのはどこか、って聞いて歩いてたらしいぞ。」


「…そんな、まさかっ…」


瞬間、俺は飛び出すように船着場の方へときびすを返していた。



「ちょっ、ジロー?!」


「サム、真綾のこと港まで連れて来てくれ、頼む、早くな!」


少しの希望と、そして緊張の所為で、心臓は破裂してしまいそうで、おまけに足はもつれて上手く動いてはくれないけれど。


でも、もしかしたら、って思ったから。

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