渇望-gentle heart-
百合と地元に戻って一ヶ月あまりが過ぎ、俺らはふたり、行かなきゃならない場所があった。


百合のお兄ちゃんに、まずはご挨拶。


やっぱりさ、一緒に暮らしてるわけだし、そういうことちゃんとしたいから。


百合は嫌がってたけどね、でも、避けてたって始まらないしさ、そういうのって一歩じゃんか。


で、何か俺、気に入られちゃってね。


それは徐々にではあるし、簡単に縮まる距離じゃなかったけど、百合は少しづつ、家族というものと向き合おうとしていた。


けれど、秋が深まったある日のこと。



「百合?!」


リビングに倒れていた彼女を見た時、心臓が止まるかと思うほど驚いた。


そしてその周りに散乱していたのは、大量の薬。


睡眠薬だ。



「おい、百合!」


意識がもうろうとする中で涙を流している彼女を無理やり吐かせ、



「なぁ、何やってんだよ!」


どうしてこんなことをするのかと思うと、ただ悲しくなった。


百合は震えながら、ごめんなさい、ごめんなさい、とばかり繰り返す。


まるでパニックになったかのようで、うわ言のように、怖いよ、と言うばかり。



「…ジュン、苦しっ…やだよ、助けてっ…!」


見てられねぇよ。


けどさ、俺に縋るように伸びてきた腕を抱き寄せ、息を吐いた。



「大丈夫だから、落ち着いて。」

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