渇望-gentle heart-
「だから?」


「だからな、人生もそれに似てるねんて。」


どういう意味かわからずにいると、



「例え人生のどん底を味わっても、人は大きくジャンプ出来るねん。
やから、辛い過去とかも、それをバネにすれば良い、って話。」


どん底を味わった人間こそが、より高く飛べるのだと、真綾は言った。


残念ながら俺達は、空を飛ぶ鳥にはなれないけれど、太陽に手が届くようなこともないけれど、でも近付くことは出来るんだ。


彼女の傍にいれば、そんな何もかもが簡単なことだと思えてくるから不思議だった。



「ありがとな。」


「何が?」


「わかんないけど、そう思ったから。」


愛してるなんて言葉、易々とは言いたくない。


肌を合わせなければ成立しないような関係だって、必要ない。


けれど、彼女に対しては、いくら感謝の言葉を並べたって足りないくらい、何度だって言ってしまう。



「だから、ありがとな、って。」


照れるやんか、と真綾は言った。


俺達は顔を見合せて笑いながら、ふたり、夜空を見上げた。


幾千もの数の星が煌き、それは少し、人の出会いと似ているのかもしれない。


もう、焦げ付くほどに望むものなんてないけれど、不思議と心穏やかでいられる今を愛しくも感じてしまう。


真綾の隣は、いつも日向のようだ。

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