渇望-gentle heart-
それはきっと、百合が今までずっと、必死で抱え込んで来たものだから。


悲しい過去も、辛い別れも、数々のことをその体に溜め込んできたのだと思うと、ただどうしても、やるせなくなるんだ。


なぁ、お前こんなにも細かったっけ。



「俺はお前のこと見捨てたりなんかしないから。」


死んじゃダメだ、なんて言うことは簡単だけどさ、そんな安っぽい台詞なんかが何になるだろう。


百合は体中を痙攣させ、俺へとしがみついてきた。



「…ごめっ、なさいっ…」


それはきっと、無意識なりの、彼女の奥底から出る言葉。


夜が、暗い場所が嫌いだと言ってたね。


ひとりっきりでいることが、誰にも存在を認めてもらえないことが、恐怖なのだ、と。


俺は精一杯で口元を上げた。



「じゃあ今日はさ、一緒に寝ようか。」


こんなことをした理由が知りたいわけじゃない。


きっとそんなものなんてなく、衝動的なのだろうし、ホントのことを言えば、ちょっと怖かったんだ。


あの男の名前は、やっぱり俺だって聞きたいわけじゃないからさ。


百合を部屋のベッドまで運び、ふたり、同じ布団に入った。


その涙を拭ってやり、抱き締めて、軽く冗談のようなキスをして、笑ってやった。



「俺、ちゃんとここにいるからさ。」


他人の力なんて、きっとちっぽけなものだろうけどさ。


でも、例え何にも出来なくとも、傍にいてやることは出来るから。


俺は百合にとって、そういう存在でありたいんだ。

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