渇望-gentle heart-
今日も流星は、明け方近くにうちへとやってきた。


酔っ払って普段の倍以上に甘くなった瞳と、そして誰のものともわからないような香水の香りを引き連れて。


流星とは、そういう男。



「遅かったね。」


これは彼を迎え入れる時の口癖だ。


それでも流星はなんら動じることもなく、いつものように少し困った顔で、ごめんな、と言いながら、口付けをひとつ。


まったく、嫌な男だ。



「やっぱ香織の部屋が一番落ち着くよな。」


じゃあ今までどこにいたのか、なんてことを聞きたいわけではないけれど。



「どうせ他の女にだって同じこと言ってんでしょ。」


「けど、ホントにそう思ってのは香織しかいないよ?」


騙されちゃいけない。


けれど彼は、いつだってそんな言葉であたしを翻弄するから。


疲れた表情を浮かべながら、流星はあたしを抱き締めたままに肩口へと、こてりと頭を預けてしまう。


憎いまでに愛しい男。


例え一番じゃなくとも、この一瞬、流星はあたしだけのものになったと錯覚出来る。



「なぁ、香織。
俺、こんなんだけどさ、お前に見捨てられたら終わりだと思うと、怖いんだ。」


「嘘ばっかり。」


「嘘なわけないじゃんか。」


突き放すと甘えてくる。


愛しさと、そして少しの憎しみが混じりながら、それを押し殺しあたしは、微笑みを返した。


それは、精一杯で見せる余裕。


本当に捨てられたらと恐れているのは、きっとあたしの方だろうけど。

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