渇望-gentle heart-
セックスはあたし達にとって、愛情表現なんてものじゃないことくらい、わかってる。


それでも流星が、嘘か本当かもわからないような弱さを見せるから、あたしはどんどん溺れていく。


彼はあたし以上に愛を欲しているようにさえ見えたから。


どんな過去を過ごしてホストになったのかなんて知らないけれど、でもたまに見せる危なげな脆さは、ひどくあたしの母性本能をくすぐらせるのだ。


乱れた息遣いは宙に舞い、軋むベッドの音がどうしようもないあたし達の行為を奏でる。


体を繋がなければ不安だった。


もっともっと欲しかった。


だからあたしを求めるその腕に引き寄せられた時、初めて心の底から安堵出来る。


馬鹿だってことくらい、もう十分にわかってるの。



「好きよ、流星。」


悔しいから、愛してるなんて言ってやらない。


それがあたしの精一杯。


根っからのホストなこの男に、他の女を抱かないで、なんて願えるはずもないし、ましてやあたしにそれだけの金は払えない。


流星への愛を示すには、お金。


バロメーターとでも言えば良いか、彼もまた、目に見えた基準値でしか物事を量ろうとはしない男だ。


夜の闇の中でだって、流星は仮面の王子様。


爪を立て、それを引き剥がしたいと思う一方で、本当は弱さが隠れているのではないかと感じることもある。


初めて会ったあの日、あれほど光の中の人だと思っていた流星は、きっとただ、人一倍怖がりだっただけなのかもしれない。


けれどもう、引き返せない渦の中。

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