渇望-gentle heart-
目を覚ました時にはもう、とっくにお昼も過ぎているような時間で、いつものように流星の姿はそこにはない。


また講義に出られなかったな、とあたしは、肩をすくめる。


別に勉強なんてどうだって良いけれど、でもさすがに留年なんてしたくない。


じゃあ辞めれば良いでしょ、という話になるが、相変わらず中途半端なあたし。


手にしたものを失うのは、少し怖いから。


そんな時、玄関からチャイムの音が鳴り響いた。


二日酔いも重なってまだ気だるい体を持ち上げ、あたしはドアに手を掛ける。



「おはよ、香織。」


やっぱり百合か。


彼女はあたしと同じくホテヘル嬢。


何事にだって興味のなさそうな冷めた瞳が、どこか憎々しくも感じる相手。


本当は愛されているくせに、それを見ようともせずに斜に構えたその目が嫌い。


けれど、それはそれで成り立っている関係だった。



「ねぇ、頭痛薬とか持ってない?」


「どしたの?」


「風邪かわかんないけど頭痛くてさ、買いに行くのダルいし、香織なら持ってるかと思って。」


そんなことを言いながら、彼女はこめかみを押さえて部屋へと入ってくる。


そして室内を見渡して、一瞬怪訝な顔をした。


百合の視線の先にあるのは、流星が吸った煙草のピンカスの残る灰皿がある。


そうだね、アンタはあたし達の関係を馬鹿にしているんだもんね。



「香織、昨日もオーシャン行ったわけ?」


「新人入ったって言うし、茶化しにね。」


ふうん、という言葉が返されるだけ。


百合はいつだってあたしを責めるようなことを言うことはない。

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