渇望-gentle heart-
「アンタのジュンくん、どっかのキャバ嬢とデレデレ飲んでたわよ。」


それは少し、嫌味の混じる言い方だったかもしれないけれど。


百合がオーシャンで指名しているジュンという男は、現在あの店のナンバーツーで、ふたりは公私共に仲が良い。


だから嫉妬にも似た気持ちになる。


あたしと流星では、ひっくり返ったってなれない関係なのに。


なのに、



「ジュンが誰とどんな風に飲んでようが、何してようが関係ないし、いちいちそんなことあたしに報告されたって困るんだけど。」



どうして?

どうしてアンタは見ようとしないの?



「まぁ、しっかり働いてんなら、今度アイツに奢らせなきゃね。」


そんな言葉で軽くあしらい、百合は我が家の薬箱を漁る。


小さなことにさえ苛立って、だからあたしは聞こえないように舌打ちを吐き捨て、煙草を咥える。


背が高いのも、髪の量が多いのも、本当は太りやすい体質なところだって、百合と比べれば恥ずかしくなる。


彼女はあたしにないものばかりを持っているから。


その顔も、体型も、他人に興味を示さない冷めた瞳だって、あたしにくれれば良いのにとさえ思えてくる。


だから、百合が嫌い。



「ねぇ、百合は何でカレシ作んないの?」


「そんな面倒なもんいらないし。
あたしは好き勝手に生きて、好き勝手に死にたいのよ。」


じゃあ死ねば良いのに。


そう思った思考を押し込め、つまんない人生だね、とあたしは笑った。


繰り返すだけのくだらない毎日も、大嫌いな人たちに囲まれた人間関係も、そんな何もかもが疎ましい。


だからいつだってあたしは、心の奥底で流星を求めていた。

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