渇望-gentle heart-
例えばあたしは、街で目の前を横切った人より綺麗だと言われたかった。


誰もまだ持っていないブランド物の新作を褒められたかったし、格好良い男と歩いて羨望の眼差しでだって見られたかった。


愛していると言うなら、証明してよ。


そうやって愚かにも繰り返した日々で、なのに増えるのは孤独感ばかり。


何かを手に入れたかった。


けれどそれが何なのかはわからなかった。


だから焦って、酒で誤魔化すように逃げてばかり。


あたしは一生このままで、醜くも年だけを重ねていくのだろうか。


この世界を憎んでいた。


だから友達のカレシだろうと平気で寝たし、大学の教授のモノを咥えて単位を貰ったことだってある。






馬鹿な男。

馬鹿なあたし。



愚かな人間。




それは夏のことだった。


約束の夕方5時、なのに待てど暮らせど流星がこの部屋に来ることはない。


ごめんな、というだけの、絵文字すら入っていない簡素な受信メールの画面。


一緒に夏祭りに行く約束だって、こうやって無碍にされる。


守れない約束なら自分から言い出さないでよ、なんてホスト如きに思ってしまう。


いくら積めば、あの人の心は買えるだろう。


そんなことを考えながら、あたしはひとり、部屋でシンナーを吸って過ごしていた。


寂しさはいつも拭えないんだ。

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