渇望-gentle heart-
憎んでいるのか、憧れているのか、愛しているのかわからない。


ただ、それでもこの人は、百合が言うほど冷たいわけでもないんだよ。


確かに最低だし、良いところを挙げろと言われれば顔以外に思い浮かばないけれど、でも可哀想な人。


何がどう“可哀想”なのかなんてわからないけれど、いつもあたしはそう思う。



「ねぇ、あたしは流星にとって、何番目?」


「何番とかじゃなく、香織は俺にとって特別なんだ。」


「でもそれって一番じゃないんでしょ。」


「けど、特別ってのは別格ってことだよ。」


きっとこんなことの言い合いだって、流星にとってみれば、日常のこと。


一番じゃないから優先することは出来ないけど、でも特別だから許してね、って。


散々放っておいてこんなことを言うのだから、大した男だといつも思う。



「なぁ、それよりお前、今日誰と一緒にいたの?」


「教えない。」


「言えよ、俺よりそいつが良いわけ?」


プライドが服を着て歩いてるような、流星。


負けたくなくて、他人を見下して、そういうところはあたしと似てる。



「もう良いわ。」


吐き捨てたのは彼の方。


むすっとしてきびすを返そうとしていた顔に、待って、と気付けばあたしは声をあげていた。


すると宙を仰いだ流星は息を吐き、こちらを振り向く。



「嘘だよ、ごめん。」

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