渇望-gentle heart-
いつだって先にそう言ってしまうのは、あたしの方なんだ。


掴んだ光が手からすり抜けていくような感覚は、いつもあたしの恐怖に繋がる。


堕ちていくね。


あたし達も、流れ星も。


いっそ大嫌いだと言えたなら、まだ引き返す道はあったかもしれないのに。


その顔色を伺って、抱かれることでしか確かめられなくて、誰がこんなあたしなんかを愛してくれるだろう。


騙されているわけじゃあないと願いたい。


けれど、あたしは流星のことなんて今も何も知らないままだ。


例えば生まれはどこか、子供時代はどんな感じだったのか、いや、野球派かサッカー派かすら聞いたことのない関係だから。


恋人になりたいなんて思わない。


こんなヤツは嫌だと思いながら、でもこんなヤツに振り回されてる自分がいる。



「俺さ、少し疲れてるんだ。」


不意に、流星はぽつりと呟いた。



「どうして?」


「うちの店の二番手くん、今月頑張ってるみたいでさ。」


ジュンのことか。


彼が、百合の指名ホストのことが嫌いなのは、周知の事実だ。


あたしはそれを聞き、肩をすくめた。



「良いよ、明日店に行ってあげる。」


「…マジで?」


「流星があんなのに抜かされるなんて、ありえないんだから。」


それはこの男の手口なのかもしれないけれど。


でもあたしは、流星がこの街で一番でなければ気が済まないから。


嬉しいよ、愛してる、と彼は言う。

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