渇望-gentle heart-
ハルは同じく机の上に投げっ放しの参考書を持ち上げ、思い出したように聞いてきた。


短くなった煙草の煙は、窓辺で揺れる。


パラパラと捲られる、参考書。



「すごいね、何を書いてんのかすら俺にはさっぱりだけど。」


「あたしにだってさっぱりよ。」


「大学生って楽しいの?」


「楽しかったらサボったりしないっての。」


「それって学費、勿体なくない?」


「別にあたしが出してるわけじゃないから。」


ふうん、と彼は言うだけだった。



「親はあたしに期待してるみたいだけど、とんだ無駄金よね。」


そう言ってから見上げた時計には、午前3時と示されている。



「じゃあ、俺そろそろ帰るわ。」


何かを察したのだろうハルは、投げ捨てていた服を手にした。


情事の余韻さえ残さない、芯の冷たすぎる男。


確かに楽ではあるけれど、でも体以外を求められるようなことはない。


だからもしかしたらあたしは、セックスをしなければ無価値なんじゃないかとさえ思えてくる。



「ここにいたら、怖ーいホストさんと鉢合わせちゃいそうだし。」


冗談にもならない。


すっかり着替え終わった彼は、まったねー、なんて言って、部屋を出た。


あたしはひとり、膝を抱える。


適当なハルにも、来る保障すらない流星にも、身勝手な想いばかりが交錯する。

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