渇望-gentle heart-

a drug

久しぶりに大学にやってきたけれど、ここにも当然のようにあたしの居場所なんかない。


元々馴染めなかった上にほとんど来ることなんてないのだから、みんなの輪に入れないのは当たり前だろうけど。


卒業できる見込みなんて、ほとんどない。


おまけに、講義の内容もさっぱりだし、本当にあたし、どうしようもなく中途半端なのだろう。



「やべっ、和漢朗詠集の資料忘れた!」


隣の男が叫んでいる横で、あたしは興味もなく携帯をいじっていた。


比較的レベルが低いと思って専攻した日本文学だけど、興味なんてないし、漢字ばかりで嫌になる。


第一、こんなもんが世の中に出て、何の役に立つというのか。


定期的に携帯に受信される、出会い系サイトの誘いメール。


こっちの方が、よっぽど現実的じゃないか。


何もかも消えてしまえと思う一方で、あたしは百合ほど自由に生きる勇気なんてない。


結局、うざったくて、講義が始まるより前に部屋を出た。


それから当てもなく学食に行き、自販機にお金を入れた時、



「あー、香織じゃんかぁ!」


振り返ってみれば、そこには見るからにギャルと称される彼女の姿。


若菜はきっと、この大学で一番派手な女だと思う。



「若菜もサボり?」


「じゃなくて、突然休講になって、どうしようかなぁ、って思ってんの。」


じゃあ街に繰り出すか。


どちらからともなくそんな話になるのは、いつものこと。


あたしと若菜はさっさと大学を後にし、タクシーを拾って街へと向かった。

< 88 / 115 >

この作品をシェア

pagetop