渇望-gentle heart-
「もう、ホント腹立つよね!
あたし久しぶりに大学来たのに、いきなり休講だよ!」


若菜はタクシーの車中、不貞腐れた顔で息まいていた。



「若菜も休んでたの?」


「てかあたし、面倒くさいし学校辞めようかなぁ、なんて思ってさ。」


「マジ?」


「だって別にさ、プーでも生きていけるし、いざとなったらどっかの社長の愛人とかに納まっちゃえー、みたいな?」


アンタみたいな馬鹿じゃ無理でしょー、と笑った。


あまりに大声で話すあたし達に、運転手はルームミラー越しに怪訝な顔をするが、でも気にすることはない。


狭い世界の中でなら、こんなあたしだって無敵になれたような気になっていた。



「それよりさ、これからどうする?」


「とりあえず買い物でしょ!」


「香織、マジどんだけ買うつもりなのよ!」


強くなりたかった。


もう人に蔑まれたくなくて、だから何もかもを手にしていたかった。


けれど、想いとは裏腹に、何ひとつ思う通りにならないまま、こうやってくだらない毎日だけが繰り返される。


あたしが本当に求めているものは、何だろう。



「ねぇ、若菜。」


「んー?」


「もしさ、欲しいものが何でも手に入るって言われたら、どうする?」


その問いに、一度考える仕草を見せた彼女は、次の瞬間には「お金が欲しい!」と目を輝かせた。


その答えこそが、この街らしさなのかもしれないけれど。

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