渇望-gentle heart-
結局、それから訪れたのはハルの部屋。


散らかっているだけの、男のワンルームという感じで、至るところに女の影が残されたまま、放置されている。



「珍しいな、香織ちゃんが訪ねてくるの。」


そんな笑い声に無視を貫き、勝手知ったるように引き出しを開けて、いつものモノを手に取った。



「俺よりハッパかよ!」


言いながらも、彼はやっぱり笑っている。


最近のあたし達は、セックスなんてそこそこに、こういうものの売買で成り立っていた。


あたしはハルに財布から引き抜いた一万円札を押し付け、大麻煙草に火をつける。


煙を吸い込めば、すぐに思考は分断された。



「まぁ、どうせ無理だろうけど、あんま依存しすぎない方が良いってゆーか、楽しむ程度に留めておく方が賢明なんじゃない?」


呆れたように放たれた台詞さえも、耳を通り過ぎていく。



「何か嫌なことでもあった?
って、聞いちゃいないか。」




うるさい。


うるさい。
うるさい。
うるさい。



言われるまでもないことだって、ちゃんとわかっていた。


けれどあたしは、いつの間にか、悲しい時や寂しい時の感情の処理の仕方さえも見失っていた。


だからもう、これに頼るしかないのだ。


泣いて腫れぼったくなった目を閉じると、それでも決まって浮かぶのは、流星の顔。


いつだって、あたしはそう。

< 94 / 115 >

この作品をシェア

pagetop