渇望-gentle heart-
ぎしりとベッドが軋み、薄目を開けるとそこには、珍しく帰らずにここにいてくれていた流星の姿。


窓越しに、彼は薄明かりに照らされている。



「悪ぃ、起こした?」


時計を見ると、明け方も近く、窓から見える空には、朝もやの中で小さな月が行き場をなくしてしまったように、震えていた。



「あたしの方こそ、いつの間に寝てたのかな。」


「お前、俺にしがみついたまま寝るんだもん、息苦しくて死ぬかと思ったよ。」


流星が柔らかく笑った。


喧嘩して、うやむやに仲直りのセックスをした後の彼は、いつも優しい。


だからまたこうやって、何事もなかったかのように過ごしてしまうのだけれど。



「俺さ、ずっと考えてたんだ。」


彼は言った。



「香織とこういう関係になってもう随分になるけど、いつの間にかここで過ごすのも俺の生活の一部になってたよなぁ、って。」


「…え?」


「だからぁ、俺、もしかしたら香織といることが一番落ち着くのかも、って思ってさ。」


ホストではない、その横顔。


流星はいつだってあたしの望むようにはならないけれど、でも期待してしまいそうになる。



「って、俺こんなこと言うガラじゃねぇけどさ。」


彼が笑うから、あたしも笑った。


笑ってから、そっと流星の体に腕を回し、抱き締めた。



「あたしはきっと一生、流星のことを好きでいると思うよ。」

< 99 / 115 >

この作品をシェア

pagetop