青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
安心のあまりに素の性格が出てしまうけれど、荒川は気にすることなく笑声をもらしてくれた。
感動だ。
悪童と呼ばれた荒川と普通に会話しているなんて!
……けれど相手はやはり不良。俺とは対照的な生徒。長々関わりたいとは思わない。
うん、長居は無用だ。
和気藹々とした空気のままお暇(いとま)しなければ!
「田山って家近いのか?」
「はい。チャリ通です。家から近い高校を選びたくって。ついでに学もそんなになくって」
「ははっ、俺も俺も。電車通とかメンドーだよな」
お、お、お暇したいのだけれど。
「俺、色々噂になってるじゃん? けどよ、デマが多いんだ。この前なんて『一人で不良を百人斬りした』とか流された。
俺は最強か! 一人で百人を相手にするなんてもはや人間じゃねえだろ。腕っ節はあるけど、そこまで凄ぇことはできねぇって」
「でも喧嘩は強いんでしょう。荒川さん」
「そりゃあ強いとは思うけどよ。一度に百人できるほど、俺も超人じゃねえって」
「荒川さん。もしかしたら超人かもしれまんせよ? まさか、かめはめ波なんてものが「できるか!」
お暇できねぇよい、この空気!
早く会話に区切りをつけて帰りたいのだけれど、いつの間にか笑声を上げ、クダラナイ話に花を咲かせてしまう。
俺にとっちゃ所謂現実逃避なのだけれど、荒川が話題に乗ってくれるから楽しく会話することができた。
普通の俺が言うのもなんだけど、荒川って表向きは着飾っているけれど、中身は普通だ。ほんと、普通の高校生。
もっと大人っぽいのかと思っていたけれど、俺のクダラナイ話で笑ってくれるし乗ってくれるんだ。
おかげでこっちも気兼ねなく話せる(気持ちは帰りたいけどさ)。
ガムを噛みながら談笑していると、
「田山チャリ通だろ? 俺、徒歩通なんだ、途中まで一緒に帰ろうぜ」
心の奥底では戸惑いつつも、
「いいですよ。ちょっと待っていて下さい。駐輪場からチャリを取ってきます」
「いや、ついて行く。その方が早いし。田山ってオモレェから、まだ駄弁っておきてぇし」
「じゃあお言葉に甘えさせてもらいますね。荒川さん。行きましょうか」
「やめやめ、敬語は聞いていて疲れる」
爽やかなイケメンスマイルを向けられたけれど、遺憾なことに俺の胸にときめきは込み上げてこない。
んー、タメ口ご要望か。
不良は怖いけど、荒川庸一という不良さまはすごく怖いけど、でも、こうやって自然に話せているわけだし、本人もこう言っているんだ。俺は遠慮なくタメ口を使うことにした。
「んじゃ、行こうか。荒川」
快諾のかわりにタメ口を使って駐輪場に足先を向ける。
満足げに笑う不良が視界に入ったのはこの直後のことだった。