青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「ヨウの舎弟がダッセェ負け方したんだぜ。とーんだお笑い種だよな」
負けた悔しさとか、自分に対する情けなさとか。
色んな感情が雑じって俺は思わず道端に転がっている小石に八つ当たりした。
俺に蹴られた小石は変な方向に飛んで民家の塀に当たる。
小石は俺を恨みがましく見ながら、侘しく転がっていた。
思わず自嘲。
なんかあの小石と俺が重なって見えたから。
「決めたぜ、ケイ」
ヨウがいきなり俺の首に腕を回してきた。
ちょ、イッテェって!
フルボッコにされたカラダにそれはキツイ! ギブッ、ギーブッ! イッテェ!
痛がる俺を無視してヨウが話を続ける。
「俺、今この瞬間からテメェに背中を預けることにした」
ヨウが、俺に、背中を預ける、だって?
唖然とする俺に対して、ヨウはもう決めたとばかりに口角をつり上げて俺を見てくる。
イケメンってそういうお顔もイケているよな。
女子がウットリしそうなほどカッコイイ。俺もそんなイケメンになってみた……って、ちげぇ! 俺は我に返って素っ頓狂な声を上げた。
「な、何言い出すんだよ! おまっ、今まで俺達、何を話していた? 意味分かってるのか? 俺に背中を預けるってことは」
「このままじゃダッセェだろ。俺もテメェも」
俺の言葉を妨げるように、ヨウがいつもより大きめに声を出して足を止める。
当然、必然的に俺も足を止める羽目になる。
「テメェも俺もヤマトにしてヤラれた。ヤマトがヤラかしてくれたせいで、俺達は舎兄弟を白紙にする。究極にダサくねぇか? 少なくとも俺はダサ過ぎて笑いが出る。あいつのせいで舎兄弟を白紙にするっつーんだぜ?」
「し、仕方ないじゃないか。俺、弱いし喧嘩できねぇし何をするにしてもフッツーだし」
「足くれぇにはなれるっつってただろ。それでイイじゃねえか」
ゼンッゼン良くねぇだろ!
ヨウ、今までの話を聞いていたか?
耳の穴かっぽじって聞いてくれていたか?
俺じゃ喧嘩できねぇし、最弱ってわけじゃないけど弱い分類にいるし、ヨウのお荷物になるっつっているんだぞ。
俺の訴えを一切無視してくれるヨウは、回してくる腕の力をより一層強くしてきた。
「俺がテメェを舎弟にしたのは、テメェが面白かったからだ。喧嘩できるできねぇなんざカンケーねぇ。俺はテメェじゃねえとゼッテェ退屈する」
「た、退屈ってお前さ」
脱力。そんな問題じゃねぇだろ。
呆れる俺に構わず、ヨウは言葉を続ける。
「このままじゃテメェも俺もダッセェ負け犬だ、ケイ。そんなの腹立つだろ?」
ヨウが問いかけてくる。
そりゃ俺だって負け犬とかレッテル貼られるのは嫌だぜ。俺にだって意地とプライドくらいはあるんだから。
だけどさ、ヨウはこのまま舎兄弟を続けてもイイのかよ。
日陰凡人少年を舎弟にしたままでイイのかよ。
手を煩わせる事だって、足手纏いになることだってあるだろうし。
「『やっぱヤメときゃ良かった!』って後悔されても責任取れねぇよ? 俺」
「こンまま何もしねぇ方が後悔する」
「イッ」
首から腕を離したヨウが、軽く俺の背中を蹴ってくる。
フルボッコにされた俺の身体にとっては軽い蹴りでも痛手だ。
「蹴るなって」
ヨウに文句垂れながら、俺は腰辺りを押さえる。
気にすることなくヨウは五歩、六歩、前に進んで振り返ってきた。