青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「やっと見つけたぜ荒川庸一。日曜はよくもやってくれたな。あの時の雪辱、今此処で返してやるぜ!」
「あー、おとついくれぇにチャリで踏まれていた負け犬くん。何だよ、わっざわざ俺を探しに来てくれたのか?」
「誰が負け犬だゴラァ!」
くわっと血走った目を見開き、鼻息を荒くする不良に縮みこんでしまう。
ひええぇぇぇ、怖っ。怖ッ!
しかも、チャリの話題は触れないで! チャリで踏みつけたの俺だから! 加害者は此処にいるのよ!
「メンドクセェな」
今日は喧嘩をしたい気分じゃない。
荒川は面倒な顔を作って呑気に欠伸を一つ零していた。
それが癪に障る態度なのか、向こうのボルテージがグングン上昇。
一方的ではあるけど一触即発の雰囲気になった。
うっわぁ、これはヤバイ。喧嘩の雰囲気が漂い始めたぞ。俺は喧嘩なんてごめんなんだけど、ごめんなんだけどな!
ふと赤髪オールバックと目がかち合う。
内心でビビっている俺はやや体を引いた。こめかみに冷汗が伝う。なにやらヤな予感である。
「そのチャリ。その面。見覚えが」
ドキリ、嫌な方に心臓が高鳴る。
「俺は覚えがないよーなー」
白々しく誤魔化してはみるものの、
「ダァアアア! 貴様はあん時の奴じゃねえかー!」
うぎゃあああ! 顔を憶えてやがったよこいつ!
しかと俺のことを憶えてくれていたよっ! やっべぇ、マジでやっべぇ! これは非常にヤバイ!
「あん時はよくも踏んづけてくれたなっ」
「いや、あれはですね。こ、故意的じゃなかったんですよ」
「犬猫のフンだと思ったもんな?」
「そうなんだよ。あははっ、家に帰ったら車輪をつい確かめてしま……いえっ、これには浅いわけが!」
この人は俺を窮地に追い立てたいのだろうか? 向こうのボルテージが更にツーランクアップしちゃったじゃんかよ。
あの時のキャツだと分かった目前の不良さまは、ガンを飛ばし一歩足を前に出した。
「来るぜ」
荒川庸一が軽い口振りで物申す。
「く、来るって」
どぎまぎに前方を見やれば、地面を蹴って猪突猛進してくる不良さま一匹。
この時点で頭が真っ白になった俺は、危険が突進してくると本能で察知。
「殴られるのは」咄嗟にチャリのカゴに入れていた通学鞄を、
「ぜってぇ」手に取り、
「ごめんだ!」気付いたら相手に向かって投げていた。
やっちまった……我に返ると同着のタイミングで俺の鞄は相手の顔面に命中。
不良さまはその場にしゃがんで顔を押さえていた。