青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



なので懇切丁寧は答えてやる。


不良の気迫に負けないよう、俺はヨウの舎弟だ文句あっか! って、テメッ喧嘩売ってるのか、あ゛? って、言ってやるんだ。


俺はヨウの舎弟だぜ!


なりたくてなったわけじゃないし、断ろうとしていた筈なのに何故か舎兄弟関係が深まっちまったけど、とにかく舎弟になって一ヶ月経ったんだ。

こんな不良に悪態くらい言えないでどうするよ。


「おい答えやがれ! 地味チャリ!」

「え、あ……ヨウの舎弟です。あと地味でスミマセン」 


あくまで心の中で負けないよう強気に悪態付いて答えてはやるんだ!

けど、実際言うとなりゃ……な? やっぱ恐いじゃないかよ! 不良サマってさ!

チャリを持って立っている俺の隣で、「地味でスミマセンはねえだろ」ヨウが笑ってやがるし。

くそうっ、ヨウ、笑い過ぎだ。なんかハズイだろ。不良二人組は「舐めてやがる!」って声を揃えてきたし。


いやいやいや! 舐めてはないじゃないかッ、俺の台詞の何処に舐めている要素があった?


寧ろ地味でスミマセンって謝ったじゃないか!

関係ない俺が喧嘩に巻き込まれるなんて……俺、スンゲー可哀相だろコノヤロウ!

俺が心中で猛反論している最中、不良二人組が突進してきた。


先手を打ってきたな……。


やっぱり俺も敵と見なされたんだな。俺、関係ないのに。

涙を呑みながら俺はチャリのハンドルから手を放した。

突っ込んでくるうちの不良の一人の拳が飛んでくる。平凡地味俺でも避けられる拳の速さ。

日賀野の拳に比べると全然避けられる、と思えば避けられる。筈!

俺は冷汗流しながら相手の拳を避けて、右足を前に出して相手の足を引っ掛けた。相手は見事にコケた。顔面から。


「~~~! テメェッ、舐めた手を使ッ!!」


トドメとして凶器でもある重たい重たい俺の通学鞄を、力いっぱい不良さまの顔面に投げつけた。

不良さまは見事に悶絶している。これで暫くは動けないと思う。

いや、うん、ごめん、卑怯な手で。自覚はあるよ。

だけど俺、こうでもしないと勝てないから! タイマンを張る拳勝負とか、絶対勝てねぇし!

地面に転がった通学鞄を拾ってチャリのカゴに投げ入れた。ヨウは既に不良さまを伸したらしく、「やっぱ弱ぇ」愚痴を零す。


「威勢良いワリにはこの程度かよ。あーあ、無駄な時間過ごした。腹減ったし。ケイ、何か食いに行こうぜ」



人を巻き込んでおいて、ホント呑気な台詞だこと。俺は心の中で溜息をついた。

俺、田山圭太は荒川庸一の舎弟になって一ヶ月。

日賀野大和からのフルボッコ事件を境に、こうやって度々喧嘩に巻き込まれるようになった上に喧嘩を売られるようになった。

俺から喧嘩を振っているわけじゃないぜ? 喧嘩を振られるんだよ。

不良達の間じゃ俺の名は(というかヨウの舎弟の存在)が知られ渡っているみたい。

ヨウを尊敬したり畏怖したりする不良がいるように、ヨウに恨みを持つ不良がいるから、ヨウの舎弟である俺に喧嘩を吹っ掛けてくるんだろうな。


最近、よく喧嘩売られるよ。


「お前が噂の地味舎弟か?!」って言われてさ。


まあ、簡単に言えば、とばっちりってヤツ? みたいな?

あははははー……この一ヶ月、よく無事に生きてたよな、俺。

喧嘩に巻き込まれ、喧嘩を売られてきたこの一ヶ月を思い出すと、なんだか泣けてきた。ガンバッテきたな、俺。


< 121 / 845 >

この作品をシェア

pagetop