青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
……こんなことを思っている場合じゃない! 透を探さないと!
俺は話を中断して美術室に入った。
鍵は掛かっていなかった。
昼休み、美術部が此処を使ってるみたいだし、もう掃除の時間だ。鍵が掛かっていなくても不思議じゃない。
俺は透の姿を探した。
小声で透の名前を呼んでみたけど返事は返ってこない。此処にはいないのか?
肩を落として踵返す。と、ワタルさんが美術室奥に向かっていた。首を傾げて後を追う。
「ワタルさん、何を」
「シッ、準備室から声が聞こえる」
人差し指を立てられ俺は口を噤んだ。
美術準備室から確かに声が聞こえる。
先生、じゃなさそうだ。
男子生徒の声が聞こえる。
準備室って生徒立ち入り禁止じゃなかったか? そう思いながら、俺はそっと中を覗き込んだ。
……うわぁあ、いかにも悪そうな生徒がいる。いちゃっている。
髪チャラチャラ、装飾品ジャラジャラ、煙草スパスパしちゃってるよ。
いかにも不良、てカンジ! 先輩かな?
うわっ、しかも携帯でお話している!
携帯は学校に持ってきちゃいけないんだぞ!
……まあ、俺も(不本意ながら)携帯持ってきているけど。
『ああ、倉庫裏だな。すぐ行く。ん? 確かに昼休みはマズったな。けど大丈夫だろ。あいつの大事そうにしてたコレがあるし、何かあれば呼びせばいい』
ドア越しに聞こえる会話。
中の様子を見ていた俺は「あ、」と声を上げた。
静かにしろとワタルさんに目で咎められたけど、俺は構わず不良の手に持っているスケッチブックを指差した。
「あれ。透のスケッチブック。アイツがいつも大事そうに持っているヤツだ」
毎日まいにち、アイツ、スケッチブックに風景やデッサンを描いてるんだよな。
本当はデザイン科のある高校に行きたかったらしいんだけど、親の目や将来のことを考えて行くに行けなかったと言っていた。
ほんとうに美術好きだから、あのスケッチブックに毎日絵を描いているんだ。透が描いた絵を大事にしてるのを俺は知っている。
「なんであの不良が持っているんだろ、って、ワタルさん?!」
隣にいたワタルさんが中に突撃していた。え、たった今まで静かにしろって目で訴えてきたのになんで乗り込んでいるんですか。
電話を終えた不良は突然の襲撃に目を剥いていた。
刹那、悲鳴が聞こえてくる。
俺は思いっきり顔を背けた。勇気を出してチラッと中を覗き込むんだけど、また顔を背けるハメになった……ワタルさんの攻撃、えぐい。
悲鳴が聞こえなくなると、俺はそっと視線を戻しておずおず中に進んだ。先輩不良は床に蹲っている。ワタルさんは準備室の棚を物色し始めた。
そして錐(きり)を数本取り出すと、先輩不良に見せ付けた。