青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
俺とワタルさんは美術室から出ると、ひと気の無い廊下でたむろっていた。
掃除中に掛かる音楽がやけに遠い遠いものに感じる。
透のスケッチブックの中身を見てみると、あるページに足形が付いている。
踏まれたんだな。
一生懸命描いた絵(これは美術部の風景か?)が皺になっていた。
頑張って紙を伸ばしてみるけど、ちっと伸びない。俺は諦めてスケッチブックを閉じた。
透はもうすぐ美術のコンテストがあると下書きをいっぱい描いていたっけ。
この絵じゃなきゃいいな。
知らず知らずにスケッチブックを握る手が強くなる。
肩を並べているワタルさんは、壁に寄り掛かって頭の後ろで腕を組んだ。
「喧嘩に行って来ようかなぁ」
そのぼやきは、俺の耳にも入った。
「話を聞いて、かんなりムシャクシャグチャグチャだし。確か、スーパー近くの倉庫裏でたむろってるって言ってたね」
「そう言ってました。徒歩10分ってところでしょうか」
「10分かぁ。僕ちゃーん、イチ抜けよーかなー」
含みのある言葉に、俺はワタルさんに視線を向けた。
「だって掃除サボっているし一緒っしょ?」
悪戯っぽく笑うワタルさんは壁から背を離した。
本当にイチ抜けるつもりなんだ。この人。
抜けたら疑われる可能性が大きくなるっていうのにさ。
そして俺も、大層馬鹿な奴だ。
俺はワタルさんの前に立った。
「ワタルさん、俺のチャリなら5分以内に着きます。自信持って言えます。5分以内で着きます」
「ケイちゃーん?」
「そんなに喧嘩できるわけじゃねぇけど、したくもねぇけど、どうしても今回は参戦したい。足手まといにならないよう努力はしますから! 俺、ニ抜けます!」
キョトンとした目でワタルさんは俺を見てたけど、指を鳴らしてニヤついてきた。
「そうこなくっちゃケイちゃーん」
首に腕を回してくる。
「さっすがヨウちゃーんの舎弟。ノリがいいじゃじゃじゃーん。けど後で覚悟した方がいいよ」
「生徒会とヨウ達のことは一応覚悟をしておきますよ。でも今回だけはどうしても」
「おや? 君たち。お掃除はおサボりかな?」
ゲッ、その声は!
首を捻ればやっぱり須垣先輩がそこにいた。
なんでこんなところにいらっしゃるんだろ、この人。ヤーんな時に会っちまったよ。