青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
ワタルさんは俺の肩に腕を置いて、不良たちを指差した。
「フルボッコにしてきたヤマトと比べてみりゃいい。全部弱く見えっから。それにこんくらいでビビッてたら舎弟は名折れだぜ? テメェは荒川庸一の舎弟だってこと忘れンなよ」
「励ましてくれてるのか、脅してくれてるのか分からないですよ。ワタルさん」
にやり、ワタルさんは意味あり気に笑って窓の外にいる不良たちに目を向けた。
脅された方が割合占めている気がするけど、この人なりの励ましだったんだって受け取っとこう。物事はポジティブに捉えないとな! じゃなきゃやってらんねぇ。
外にいる不良たちの会話が聞こえてくる。
内容は大体、他愛もない世間話といったところだ。
昨日、ボーリングでどうのこうのだの。親がうぜぇだの。先公どうにかして欲しいだの。魚住がどうのこうのだの。
……魚住?
それって“アキラ”って呼ばれた、あの魚住のことなのか?
「魚住が約束を守るかどうか、それは置いておいても、あの連中が疑われたことは好都合。まあ、連中同士が潰し合いしてくれりゃ一番いいんだけどな」
「同感。日賀野達が潰れても、荒川達が潰れても、俺達には好都合だしな」
「あいつ等のせいで、こっちは肩身狭いもんな」
わぁーお、なんか分かんねぇけど恨まれているなぁ。
不良たちの会話を聞いていた俺とワタルさんはアイコンタクトを取った。
こりゃもう、話に聞き耳を立てる立てないの問題じゃない。突撃あるのみだ。
勢いよく窓を開けると、ワタルさんが先に外へ飛び出した。綺麗に着地するワタルさん、かっけぇ!
あ、ちなみに俺、ゆっくり窓から外に出たよ。
ホラ、ドジ踏んでコケたら洒落になんないから。
ダサくても安全思考第一だ! どーせ不良の中では外見、ダサい分類に入ってると思うし! 言ってて悲しいし!
俺達の出現に不良たちは度肝抜かれた顔を作ってたけど、ワタルさんの顔を見て表情が一変。
俺達が何で此処にいるのか、すぐに分かったんだろうな。
吸っていた煙草を地面に落として俺達を睨んできた。
「荒川のところ……お前は貫名に、そっちは噂の舎弟か」
「そう。こいつは俺サマの舎弟だ」
「いつ俺、ワタルさんの舎弟になりましたっけ?」
「細かいことは気にしないの~ん。んじゃ、ひとりはよろぴく」
いつものウザ口調でそう言うや否や、ワタルさんは地面を蹴った。
二人も相手させて申し訳ないけど、実際、俺、ひとりで手一杯だしな。
お言葉に甘えよう。
俺も地面を蹴って駆け出した。
バカみたいに鼓動が高鳴ってる。緊張しまくってる証拠だ。
俺がターゲットにした赤茶髪の不良は、倉庫裏に置いてあった手頃なプラスチックパイプを手にしていた。
ちょっ、いきなり道具使うの反則じゃね? まずは素手だろ素手!
野球バットを振り回すように、赤茶不良は俺に向かってプラスチックパイプを振り下ろしてくる。
紙一重で避けたけど、今度は振り上げてくる。
避けたら横腹に蹴りかましてきやがった。
呼吸が詰まりそうだ。