青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―







「――なあ、透。なんでスケッチブックが三冊もあるんだよ」


授業合間の十分休み、一心不乱に絵を描いている透に声を掛けた。

よっぽど集中していたのか、一回目の呼び掛けじゃ反応すらしてもらえなかった。

二回目、三回目、四回目で透はやっと反応を返してくれた。


「ごめんごめん」


気付かなかったことを詫びて、透は俺の疑問に答えてくれた。

「一冊は部活用で、一冊はコンテスト用で、一冊は自分用なんだ」

「自分用?」

「自分の気に入ったものを描こうと思ってさ。最初は一冊に纏めてたんだけど、ごちゃごちゃし始めて。こうやって三冊に分けてるんだ」

「ふーん。ほんと絵、好きなんだな」

「今度、圭太くん描いてあげようか? フッツーな絵になりそうだけど」

「わぁーるかったな。俺の顔はどーせフッツーだよ。お前と一緒でフッツーさ」

顔を顰める俺に、透は可笑しそうに笑声を上げた。




透のスケッチブックは全部で三冊ある――。 


まだ出会って間もない頃。

透がスケッチブックを見せながら、大事そうに、誇らしそうに、俺に説明してくれたからよく憶えているんだ。


一冊に纏めて描いてたんだけど、コンテスト用とか部活用とか絵がごちゃごちゃし始めたから三冊に分けたんだって。


美術室で奪い返したスケッチブックの冊数に疑問を抱いて、不良に事情を聴いたら残りは仲間が持っていると言うんだもんな。


それ聞いた瞬間、絶対あいつ等ぶっ飛ばす! と思ったんだ。



だってさぁ、そいつ等のせいで生徒会や透に疑われちゃったりしたんだぜ? 生徒会だけならまだしも、地味友にまで。スッゲェ腹立ったよ。


不良たちのよれた通学鞄に入っていた二冊のスケッチブックを取り出して、俺は上がらない左肩を気遣いながら中身をパラパラ捲って無事かどうか確かめる。


汚された形跡は無いな。踏まれた形跡も無い。煙草の火の痕もないし、良かった、無事だ。


深く息を吐いて俺は重い腰を上げた。

そのまま煙草を吸っているワタルさんに歩み寄った。



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