青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



彼も多少負傷はしているようだけど、俺ほどじゃないようだ。


頬に掠り傷ができた程度みたいだし。


対して俺は左肩が重症。軽く顔にも擦り傷できちまったし。

ワタルさんに軽く肩を見てもらったけど、色が紫っつーか黒っぽくなってた。皮膚がヒリヒリするし、ジクジク痛む。


「骨折はないと思うけど、病院には行った方がいいかもねぇ」


ワタルさんは後で病院に行こうと言ってくれた。ついて来てくれるんだって。

酷くなったら困るし、母さんとかに連れてってもらったら何かと煩そうだし、お言葉に甘えることにした。ワタルさん、意外と優しいんだ。意外と。


「お目当てのあった? てか、肩、今から行ってもいいよ~ん?」

「大丈夫です。我慢できない痛みじゃないですし。お目当ての物はちゃんとありました」 


スケッチブックを見せて、俺はワタルさんの隣に並ぶ。煙草独特の苦々しい香りが鼻腔を擽ってきた。

倉庫裏の隅っこには不良たちの伸びている姿がある。不良の一人に勝ったんだ。


夢見たいだ。

この俺が不良に勝てた。嬉しいっつーか、やってやったぜ! という爽快感が胸を占める。自然と笑いが零れた。


「楽しそうだねぇ」

「勝てたんで!」


ワタルさんの問い掛けに、俺は即答。ワタルさんは笑声を上げた。


「負けるのは楽しくないもんねぇ。僕ちゃーんも久しぶりにサボれたし、喧嘩もできたし、ストレス発散ってカンジかなぁ。でもアキラのことは、イイ収穫得られなかったなぁ」

「魚住、でしたっけ? 先輩たちに“荒川達の名前を汚せたら三千円あげます”と言っただけですもんね。どうやって知り合ったかは分かりませんけど」 


結局、何一つ有力な情報は得られなかった。

少しでも情報が得られれば、日賀野達の目的が見えたかもしれないのに。

多分、ヨウ達を潰したいことには違いないけど……よく分かんねぇや。向こうの目論見。


「ヨウちゃん達に報告するまでもないねぇ」


ワタルさんは紫煙を吐きながら俺に言った。


「収穫の無い喧嘩を報告しても楽しくないしねぇ。ヤマトちゃん達が直接関わっているわけでもないし」

「先輩達のこと、言わなくていいんですか?」


「だってぇ、二人でシメちゃったでしょー? これはもう解決だってぇーん」


収穫の無い余計な情報は報告しない、それはワタルさんなりのヨウ達に対する気遣いなんだろうか?


……きっと気遣いなんだと思う。

終わったことをウダウダ言われても困るから。


おちゃらけているワリに人のことをちゃんと考えているんだ。ワタルさんって。


煙草を吸い終わったワタルさんは、地面に吸殻を落として足で揉み消すと俺に声を掛けた。俺はワタルさんの隣に並んだ。二人で来た道を辿って行く。

取り返したスケッチブックに目を落としていたら、ワタルさんが不意にこんなことを言ってきた。


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