青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



あ、そういえば透。


俺は目だけ動かして透を探す。

教室にはもういないようだ。どうしよう……スケッチブック、俺が持ったままなんだけど。明日よりも今日渡したいな。


「ケーイーッ、質問に答えてよ!」

「うわぁつ! や、弥生、近いッ、顔近い!」


至近距離に弥生の顔があるっ! 女の子の顔がある!

女の子とかにあんま接したことないから、こういう状況はスッゴク意識しちゃうんだって。

日陰男子なら気持ち、分かってくれると思うけどさ。大慌てで後ろに下がる俺に対して弥生は容赦ない。


「説明してよ!」


グイグイ寄って来る。


「逃げないで説明してよ、ケイ!」

「いやさ、そのさ」


「ハッキリ説明して! 此処で!」


うわぁああー……女の子ってしつこい。恐い。強い。俺は必死に逃げ道を探す。


「と、とにかく生徒会室に行こうぜ。呼ばれてるしさ」

「そのとおりだね。話が終わってからでも、ゆっくり聞けるし。ケイ、逃げられないと思っときなよ。ヨウも相当気にしてたみたいだから」


うわぁああー……ハジメさん、脅しはナシだぜ。マジで。

引き攣る顔を無理やり緩ませるように、愛想笑いを浮かべてみたけど、やっぱ引き攣り笑いにしかならなかった。





「失礼しまーす」


弥生とハジメの3人で生徒会室に入ると、そこには既にヨウとワタルさんがいた。タコ沢は来ていないっぽい。

あ、そういやアイツ、職員室前にいたな。

職員室を通ったら、しかめっ面作って廊下に立ってたもん。

呼び出しでも喰らったのか? 役員もいるけど肝心の生徒会長はまだ来てないようだ。


ワタルさんはニヤニヤ笑っていたけど、ヨウに質問攻めされていたのか、どことなく困った顔を作っている。

でも余裕そうだな。

困っているけど、どこか愉しんでいるもん。

俺が入って来たらワタルさんが目を輝かせて手を振ってきた。


「ケイちゃーん、さっきぶり! 早速だけど、ヨウちゃんのお相手頼めるー? ヨウちゃーんの相手、僕ちゃーん疲れちゃった」

「あ゛ぁん? テメェ、疲れるようなこと何一つしてねぇだろうが。俺が質問してもヘラヘラヘラ笑うだけ、ざけやがって」


なんで入って早々そういう無茶振りが降りかかってくるんでございましょうか。

こっちとらまだ心の準備も何もしてないのに。


ワタルさんに向かって無理ムリと首を横に振るけど、ワタルさんも無理ムリと首を横に振ってきた。


ワタルさんの方が付き合い長いでしょ! 頑張って相手して下さいよ!

俺にヨウの相手なんて荷が重過ぎるって! なんて思っていたら、ヨウが俺と視線を合わせてきた。

若干、睨まれている気がする。気がするじゃない、睨まれている。

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