青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「……なんだよこれ。ケイ、少し動かすぞ」
「え? うごッー…イッ、イデデデデデっ! よ、ヨウ、たんまたんまたんまっ、うぁああツ!」
おもむろにヨウが俺の左腕を掴んで、無理やり上にあげようとした。俺は廊下に悲鳴を喚き散らしながら左肩を押さえる。
む、無理、ギブギブギブギブッ、痛いッ、ヨウ、痛いから! 左肩が痛くて腕があんま上がらないんだって!
そうヨウに伝えたいんだけど、言葉にならない痛みに呻き声と悲鳴しか出ない。
身悶えする俺を解放して、ヨウは眉間に皺を寄せたまま口を開いた。
「こりゃひでぇな。骨に異常があるかもしれねぇ。俺はケイを連れて病院に行く。ハジメと弥生はワタルから事情を聞け」
「ええぇええ! 僕ちゃーんの役割取っちゃうの? それはあんまりなすび。病院には僕ちゃーんが」
「テメェは弥生とハジメにサボった理由を説明する義務があンだよ。俺はケイから事情を聞く。それで解決だろうが。
どうせ病院に連れて行くだの何だの口実を作って逃げようと思ったんだろうがそうはいかねぇぞ。弥生、ハジメ、徹底的に事情を聞いて来い。ワタルを逃がすんじゃねえぞ」
うっわぁ……徹底的にって。
ということは俺、徹底的にヨウに事情を説明しなきゃなんねぇのか?
ハジメや弥生以上にヨウの相手は恐いっつーのに、俺、マンツーマンで舎兄に説明しなきゃいけないのかよ! ……オワタな、俺。
諦めに近い気持ちを抱きながら、シャツのボタンを留める。無事に帰れるかなぁ。
溜息をついてワタルさんに視線を送る。
気付いたワタルさんは俺にウィンクしてきた。
追い詰められいるワリには余裕の表情。
もしかしてこの状況、楽しんでるんじゃないか?
微苦笑を零して、俺はワタルさんに歩み寄ってこっそり耳打ち。
「喧嘩。連れてってくれてありがとうございました」
するとワタルさんが大笑い。
ヨウ達が怪訝な顔を作るくらい、大笑いして俺にこう言ってくる。
「ケイちゃーんって変な子だねぇ。あー可笑しいおかしい。ケイちゃーん変な子、変子、へんっこ~、じみっこ~」
いつものウザ口調で俺をからかうワタルさんは、
「変っ子地味っ子」
口ずさみながら軽く駆け出した。オレンジ色の長髪が走る風に靡いている。
それが妙に印象的だった。
目立つ色のせい、それも勿論あるんだろうけど、訳もなく目に焼き付いちまった。
「ちょっとー!」
弥生は走り出したワタルを追い駆け始めた。
途中で捕まったワタルさんは「逃げたんじゃないってぇー」と言い訳していたけど、弥生に何度も容赦なく叩かれている。
呆れ笑いながらハジメが二人の背を追った。
「逃がさないって」
ワタルさんの背中を叩いているハジメの言葉に、ワタルさんはニヤニヤ笑うだけ。楽しんでいるな、あの人。
でも今のはワタルさんなりに、俺のお礼を受け止めてくれたと思っていいよな。